10月18日 国際繋生語ワークショップを行いました
国際交流基金シドニー日本文化センターで、アートとことばの教育で豊かに繋がることばの活動についてのワークショップを行いました。40名以上の参加者が集う賑やかなワークショップとなりました。

このセミナーでは三つのワークショップを行いました。
一つ目は「旅するムサビin Sydney」で、武蔵野美術大学の三澤一実さんと三代純平さんによる絵画を使った対話鑑賞のワークショップでした。最初は一つの絵についての色々な解釈について話し合い、その後グループに分かれて、色々な見方を共有しました。私は火山の噴火の絵だと思っていたら、走りながらラーメンを食べている少女(セーラームーン説もあり)という意見が多く、色々と驚きのある絵でした。

その後グループで対話鑑賞を行いました。そこには教師はいないのですが、1人だけファシリテーターがいます。そしてファシリテーターが重要な役割を果たします。三澤先生は、ファシリテーターの大事なことは自分の意見を言わないこと、そしてみんなの意見を
つなぐ
ひらく
まとめる
もどる
作業を通じて、対話を成熟させていくことが大事だと言いました。
確かに、色々な見方があって良いしそしてそれらの見方の多様性をうまく、共有しすることは楽しいのですが、一つの意見に収束したり集約されたりすることなく、かつ、それぞれが言いっぱなしでバラバラにならないよううまくつないでいく、ということが大事なように思いました。
また、対話鑑賞は語ることも大事だが、聞くことにより意味があるという発言が三代さんから出され、そのこともとても心に残りました。確かに、色々な人の意見、その意見のもとにある経験や思い出などを共有することの意義には、意識が向いていませんでした。私たちは自由に作品を鑑賞しても良いのですが、人の鑑賞を鑑賞することにおいても自由でいいのだろうと思います。対話鑑賞というのは、作品を対話しながら鑑賞する、ということと、対話を鑑賞するという二つの意味があるのかもしれません。

二つ目のワークショップは「アートでCLIL」と題して東京都立大学の奥野由紀子さんにワークショップを行っていただきました。CLILとはEUの市民教育としての複言語・複文化主義に影響されて生まれたもので言語を通して平和な社会の構築に資する言語教育アプローチです。奥野先生は『日本語でPEACE』など、CLILを平和と結びつけた実践で有名な方ですが、最近はCLILとアートを結びつける実践も行なっておられます。

ワークショップでは、フェルメールの手紙についての2枚の絵について対話鑑賞し、その後絵の登場人物になりきって書く課題はとても盛り上がり、力作がたくさんでした。その際のことばも日本語もあり、英語もあり、色々な作品ができたようです。時間が短くて鑑賞の時間が取れなかったのが残念です。CLILは言語教育実践としてのノウハウの蓄積が豊富なので、内容だけでなく言語の習得を意識した授業デザインになっているところが、対話鑑賞との違いのように感じました。

三つ目のワークショップは、Creating Cultural Stories: The Kimchi Book Processです。メルボルン大学のJulie Choiさん、絵本作家のHana Kinoshita Thomsonさんが、まずKimuchi for Everyoneという作品を作った経緯について英語で話してくれました。Julieさんはアメリカと繋がりが強いKoreanで「自分はいつも不完全なコリアンで、不安を抱えていた」のだそうです。そしてキムチの絵本を作ることで、自分の不安を乗り越えようとしたのだそうです。そして学術的なテキストはとても硬い (so dense)ので、絵本で親しみやすく、メルボルンの子どもたちにもキムチを好きになってもら得るように作ったそうです。韓国でたくさんのキムチのフィールドワークを行い、自分の盛りだくさんの提案に対して、絵本作家のハナさんはクリティカルに削除してくれたそうです。二人の協同活動によって、だんだん意味づけが変わってきたという点がとても興味深いと思いました。絵本という表現方法によって、Julieさんは随分影響され、変わったようです。絵を使うことで"Everybody can not start from a language. but everyone can start from image."と、言語を介さずに繋がれることも重要だと感じました。
説明を受けた後は、自分の思い出を大切にした絵本作りでした。くりごはんやパクチー、ヨガなど色々な絵本ができました。私はキムチにちなんで、KICHI(基地)for Everyone.を作りました。子どもの頃新興住宅地に住んでいた私や友だちにとって、コンクリートパネルなどの建築資材は基地づくりの貴重な材料でした。色々な基地を作って遊んだ思い出を絵本にしました。

下は尾辻さんのパクチーの絵本
こちらも時間が短く、十分に共有・鑑賞する時間がありませんでした。残念でした。
この科研では、繋生語教育のデザインについても実践研究を行なっています。その一つがアートベースの教育です。アートの鑑賞や制作は言語を介さずに色々な意味の共有を可能にしますし、親子関係などの上下がありません。また、正解もありません。これからもアートベースのことばの教育実践と繋生語教育の接続について研究を進めていきたいと思っています。
最後に、このワークショップに登壇いただいた講師の先生方、会場を貸してくださった国際交流基金、運営に尽力いただいたすべての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
